ゲームシーンの背景

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ワイルズ・オブ・トランドール:ワールドデザイン

全般

25/05/06

ワイルズ・オブ・トランドールではソリシウムに多様な環境を持つエリアが追加されました。マップの広さをおよそ2倍にしたこのアップデートでは、湖を囲う谷に隠された太古の図書館から、遥か昔に崩れ落ちた巨人まで、さまざまなコンセプトのエリアが綿密なデザイン検証を経て実装されています。無料エキスパンション「ワイルズ・オブ・トランドール」に登場する繊細に作り上げられたエリアについて、開発チームにその開発経緯を聞きました。

ヘルバ村

ヘルバ村の風車式リフトはトランドールの中央の最も標高が高い位置に配置されており、ここを起点にすることで新しいエリアへのアクセスが容易になっています。リフトの通るルートも意図をもって設計されており、『スローン・アンド・リバティ』の世界で空中リフトがあるとしたら、一体どんなものになるのかについて、長い間考えました。 魔法的な要素だけを使うのでは人工的すぎますし、意外性も無いので、現代のケーブルカーをベースに、それを中世世界に相応しい形へと落とし込む方法を探ることにしました。

  • 長く太い鎖またはロープを使った空中輸送システム

  • 動力は人力あるいは風力で、歯車と滑車を用いたもの

  • 滑車の仕組みと同じように、巨大な車輪が回転することで風力またはそれ以外の動力をロープに伝える

屋根も壁もないデザインにすることで、単なる移動手段ではなく、トランドールの絶景を堪能してもらえるものになっています。

ベルカント大邸宅

「有力貴族の邸宅」としての説得力が出るよう、ベルカント大邸宅をデザインする際は実際のお城やお屋敷の間取りをいくつも参照しました。その結果、ここを訪れたプレイヤーに強いインパクトを残すような、既存のエリアにはない独特な建築様式が出来上がりました。

また、ルーブルの豪奢なエクステリアの影響を受けて、歴史的な正確さよりもスタイルによる差別化を優先することにしました。ベルカント大邸宅では、リムニー・ベルカントによる悲劇の物語が語られます。優美な建物を荒廃した村や農地と対比させることで、この物語の雰囲気を補強しています。建物の内部では赤を主要なアクセントカラーとすることで豪華さを演出し、ここでも外部の荒涼とした景色と対比させました。

リムニー・ベルカントがボスとして登場する謁見室にはこのエリアで最も美しい赤い樹が配置されており、植物へ変異してしまう呪いというテーマをアイロニックに表現しています。

ここでの景色をプレイヤーの記憶に残してもらうために、建物の内部と外部でドラマティックなコントラストが生まれるよう工夫しています。ベルカント大邸宅は本作のストーリーとテーマをビジュアルで表現する重要なマップなので、プレイヤーに長く続く印象を残し、没入感を高めるようにデザインしました。

真理の神殿

真理の神殿は、湖を囲む崖の内部に隠された太古の図書館から着想を得ました。遺跡らしい謎めいた雰囲気と時間の経過を強調するために、見えないように隠された入り口と古代の建築を配置しています。

謎の光る文字は図書館の秘めた神秘的な力を、崩れ落ちた建物による荒廃した景色は時間の経過を表現しています。歴史と真実を記録するというテーマに、図書館以上にぴったりなモチーフはありません。

太古の記録が真理となるこの地には膨大な数の碑文が書き残されており、プレイヤーは時の流れの中で失われた知識と対面することになるでしょう。

キーティス占領地

このエリア名は、かつて水の力を用いてこの地を支配していたキーティスという巨人の名に由来します。ここにはかつて最も強い力を持つとされた巨人「キーティス」が、ヒューマンとエルフとオークの連合軍との戦いの末にその心臓を失ったという歴史があり、それをマップ上にも表現したいと思いました。キーティスは巨大な岩となりましたが、戦いの傷跡は今もこの地に残っています。

キーティスが心臓を失い、岩となって崩れ落ちた際にできた起伏の激しい地形と廃墟が、このエリアの景観のコンセプトです。

守護者の森:このエリアはキーティスが敗れた後の光景を表現したもので、地面はひび割れ、そこから魔力が溢れています。神秘的な森を舞台に破壊の爪痕と魔力の痕跡を絡めて表現することで、美しくも不気味な景観を創り上げました。

キーティスの絶叫:このエリアではキーティスが岩へと変化し、自然の一部となった際のことをビジュアルで表現しています。かつての大戦と神話の名残が、忘れられた歴史として地形そのものに刻み込まれているのです。「倒れたキーティスの背中で戦闘ができるようにする」というアイデアを思い付いたときのことは今でも覚えています。

占領戦:キーティス占領地の占領戦は、険しい渓谷の先にある円形の戦闘エリアが舞台となります。渓谷にはキーティスによって破壊された大岩と、その隙間から生えてきた蔦や木の根に覆われています。ここは危険な橋を渡った先にあるのですが、この橋と静謐な戦場のコントラストを表現することを念頭に置いてデザインしました。

ブラックアンヴィル駐屯地

ドワーフたちは厳しい環境の中でも拠点を築き、独自の文化と技術を発展させました。ここにエレベーターやトロッコといった、発達した移動手段が存在するのはそのためです。装備品から建物まで、ここにあるものはすべて頑強な鉱石で作られています。

厳しい環境とドワーフたちの力強さを表現するために、象徴となるような色を使うことにしました。

  • 赤色の砂は生命の象徴であると同時に、この土地の厳しさも表現しています。

  • 柔らかさや曲面を排した幾何学的でシャープな形の建築物は、ドワーフたちの力強さと雄大さを表しています。石と金属といった素材は、中世ファンタジーの世界観を補強するのに欠かせない要素でした。

  • ドワーフの生命力と魔力の源である緑色の鉱石は、印象的なアクセントとしてコンセプト全体に深みを与えるためのものです。

上記の3つのシンボル的な要素を通して、ドワーフの卓越した技術と創造力を表現することが最終的な目標でした。

クリムゾン邸宅

クリムゾン邸宅の建築様式はベルカント大邸宅と同様のものですが、こちらは荒々しさとグロテスクな側面が強調されています。地下の研究所は監獄と研究所の要素をベースに骨のモチーフを加えており、クリムゾン家の暗い雰囲気を表現しています。

こうした不気味なデザインを通して、ここで密かに行われていた残虐な実験の気配を感じられるようにしました。スノーバン山地と荘園は長い間放置されて荒れ果てており、今では凶暴な魔物たちによって支配されています。ここでは人の手に触れられていない自然の荒々しさを表現しています。

このエリアは、イタリアのドロミテの景観からインスピレーションを受けているのですが、邸宅の外には石の彫刻やキノコのような形の山頂、胎動の湖といったものが並びつつも、それらが見慣れない植物たちに支配されています。こうした要素は自然の美しさと内に秘めた危険さをシンボリックに表現しており、景色から物語を読み解けるような仕組みになっています。

沈黙の沼地

沈黙の沼地は『スローン・アンド・リバティ』の中でも最も環境が変化しやすいエリアです。沼地全体の水位は様々な条件、例えば昼と夜、晴天と雨といった要素で頻繁に上下し、ゲームプレイにも少し影響を与えます。

かつてここは海だったのですが、突如海水が引いたことで沼地になりました。その時に取り残されたサメたちは長い間厳しい環境に置かれることとなりましたが、世代を重ねて進化し、今ではこの地の頂点捕食者となっています。バックストーリーに基づいて暗く荒涼としたデザインにし、厳しい自然環境と冷たい雰囲気を強調しました。

沈黙の沼地は大きく2つのゾーンに分かれています。

  • 川の沼:シダや藻、水草、蓮の花といった植物を配置することで、緑の豊かな自然環境を表現しています。

  • 海の沼:このゾーンは霧で覆って司会を悪くすることで、謎めいた雰囲気と荒涼とした環境を表現しています。

また、海水が抜けた時に取り残されて難破した船も配置しており、そこには傷ついてぬかるみにはまったミニュトライトが霧の向こうからかすかに見えます。これにより、放棄された雰囲気と沼地に隠された秘密を演出しています。

沼地を訪れたプレイヤーは独特な配置でちりばめられた岩を目にすることになるのですが、ここは開発の最終段階で少し調整が加えられており、もともとは岩に大きなくぼみがあって、そこに進化したサメが住み着いているという設定でした。岩の質感を再現するにあたっては、何千年もかけて風化・浸食された現実世界の岩を参考にしました。

最後の要素は、沼地を巡回する船です。こちらは幽霊船というコンセプトでデザインされたもので、延々と同じ場所を回っています。こうした動的な要素を注意深く加えることで、沼地の静的な雰囲気とのバランスを取っています。調和のとれた環境でありつつも、どこか不気味さを持ったエリアを作りたかったのです。

大樹の森

無数の木々が生い茂る森の中に、ひときわ高くそびえているのが賢者の大樹です。現在のトランドールは長い大戦の影響で多くの傷跡が残る土地になっていますが、この大樹は今でも美しい姿を保ち続けています。

大樹の森のコンセプトは、かつてエルフがヒューマンに魔法を教えた神秘的な土地というものです。エルフの建築様式と雄大な大樹の佇まいが自然と交わり合うようにデザインされており、これによって聖なる木がエルフたちを守護しているという雰囲気を強調しています。

夜になると大樹は不思議で柔らかな光を発し、謎めいた雰囲気がさらに高まります。大樹は北欧神話に登場するユグドラシルからインスピレーションを受けており、デザインする際はその計り知れないスケールを表現するために過度に複雑な構造は避け、一目でその雄大さを感じられるようにしています。

公式Discord で、ぜひ皆さんのお気に入りのエリアをお教えください。いつも『スローン・アンド・リバティ』を応援していただきありがとうございます。それでは、ソリシウムでお会いしましょう!